内藤裕二「プラスチックの怖い話」
京都府立医科大学
内藤 裕二
プラスチック、アルコール、糖 ― 私たちの健康と地球を蝕む、見過ごされた脅威
「自分には関係ない」と思っていないでしょうか。地球温暖化やマイクロプラスチックの問題は、もはや遠い未来や他人事ではありません。内藤裕二氏が警鐘を鳴らす、私たちの生活に深く根ざした健康リスクの数々。医療現場に潜むプラスチックの脅威から、アルコールや糖が人体に与える深刻な影響まで、最新の研究が明らかにした「不都合な真実」に迫ります。
医療現場にも忍び寄る「プラスチック汚染」という現実
プラスチック問題は、海洋汚染や環境問題として語られることがほとんどです。しかし、実は私たちの最も身近な場所、医療の現場でも深刻な問題になりつつあります。
「今、病院はプラスチックだらけです。医療機器もカテーテルも、人の体に入れる様々なものがプラスチックでできています。」
内藤氏が指摘するのは、こうした医療用プラスチックが新たな健康リスクを生み出している可能性です。最近の研究で、プラスチックを分解し、餌にする特殊な腸内細菌の存在が発見されました。この菌は、体内に取り込まれたプラスチックを食べることで増殖し、その過程でより毒性の強い物質を生み出すことがわかってきたのです。
これまで安全だと考えられてきた医療機器が、体内で予期せぬ毒素の温床となるかもしれない。今、医療で使われる素材のあり方を根本から見直す議論が急務となっています。
一方で、この「プラスチックを食べる菌」は、環境問題解決の糸口になる可能性も秘めています。この菌の分解能力をうまく利用できれば、地球に蓄積し続けるプラスチックごみを減らす技術に応用できるかもしれないのです。
「お酒は少量なら体に良い」は、もう通用しない
話は、現代人の食生活に潜むリスクへと移ります。多くの人が信じてきた「健康神話」が、今、科学的根拠(エビデンス)によって覆されようとしています。その代表格が「アルコール」です。
「ここ2、3年の間に、WHO(世界保健機関)と国際がん研究機関は、『お酒が体に良いというエビデンスは取れない』と結論付けました。『今日からやめても、がん予防につながる』とまで宣言しています。」
「付き合い程度なら」「ビール1本くらいなら」といった言い訳は、もはや通用しません。世界の研究データは、アルコールの摂取量とビジネスパフォーマンスが完全に負の相関関係にあることを示しています。
特に、遺伝的にアルコール分解酵素の働きが弱いモンゴル系の人種(日本人を含む)にとっては、アルコールは「害」でしかないと内藤氏は断言します。体質的にアルコールを受け付けない人が多いにもかかわらず、無理に飲酒を続ける文化が、知らず知らずのうちに健康を蝕んでいるのです。
あなたが甘いものをやめられない本当の理由
アルコールを飲まない人でも安心はできません。現代の食生活には、もう一つの大きな脅威が潜んでいます。それは「糖」です。
「最近、臨床の現場では、お酒を全く飲まない人の肝臓がんが非常に増えています。ウイルス性でもないのに、脂肪肝をベースにした肝臓がんです。日本の肝硬変や肝がんの原因は、今やアルコールやウイルスではない時代なのです。」
では、その原因は何か。内藤氏は、アルコールと同様に**「腸内細菌」**が関わっている可能性を指摘します。
なんと、私たちの腸内には糖を餌にして、微量のエタノール(アルコール)を自ら作り出す菌がいることがわかってきました。甘いものや炭水化物が好きな人は、知らず知らずのうちに体内でアルコールが生成され、「慢性的アルコール曝露」と同じ状態に陥っている可能性があるのです。酔っ払うほどではありませんが、この持続的な刺激が肝臓にダメージを与え続けると考えられています。
「アルコールはダメ、糖もダメ、肉も控えるべき。今の若い世代の食生活とは、まさに正反対ですね。」
内藤氏は最後に、衝撃的な事実を付け加えます。
「甘いものがやめられないのは、あなたの意志が弱いからではありません。あなたの腸内細菌が脳を支配し、『糖を摂れ』というシグナルを送っているのです。」
プラスチック、アルコール、そして糖。私たちの便利な生活や楽しみの裏側で、静かに、しかし確実に進行する健康と環境への脅威。今一度、自らのライフスタイルを見つめ直す時が来ています。
NPO食品機能性委員会