2025 11 01

内藤裕二「日本の幸福度は最下位!?」

京都府立医科大学

内藤 裕二

平均寿命1位なのに幸福度は最下位? 内藤裕二氏が語る、日本の「幸せのパラドックス」

日本は世界一の長寿大国――。私たちは長年、そう信じてきました。しかし、その「神話」は今、揺らいでいます。平均寿命だけで人の豊かさは測れないという議論に加え、その寿命ランキングさえも、まもなくスペインに抜かれると予測されています。

内藤裕二氏は、健康や寿命の先にある「本当の幸せ」とは何か、最新の研究データを基に、現代日本が直面する深刻な課題を浮き彫りにします。

揺らぐ「長寿大国」の座と「健康=幸福」という幻想

多くの人が目標にする「健康長寿」。しかし、内藤氏はまず、その土台となる日本の平均寿命世界一という地位が危ういと指摘します。

「平均寿命とは、今年生まれた赤ちゃんが何歳まで生きるかの予測値です。今の若い世代の健康状態を見ると、将来、平均寿命が伸び続けるとは考えにくく、スペインに抜かれるのは時間の問題でしょう。」

また、単に長く生きるだけでなく、健康に自立して生活できる期間を示す「健康寿命」と平均寿命の差も依然として問題です。しかし、そもそも「健康であれば、本当に幸せなのか?」という、より本質的な問いが投げかけられるようになりました。

衝撃の研究結果 ― 日本の「持続的な幸福度」は世界最下位

人生の目的が幸せにあるとするならば、私たちは何を指標にすべきなのでしょうか。その答えの一つとして「持続的な幸福感」という概念が注目されています。

そして、この幸福度について、衝撃的な研究結果が権威ある科学誌『Nature』(2025年4月号)に掲載されたと内藤氏は語ります。

「アフリカ諸国を含む世界22カ国を対象にした調査で、日本の『持続的な幸福感』は、なんと最下位だったのです。」

国民皆保険制度が整備され、平均寿命も健康寿命も世界トップクラス。それにもかかわらず、日本人の幸福度が最も低いという事実は、私たちに何を突きつけているのでしょうか。

なぜ日本人は幸せを感じられないのか?論文が指摘する2つの要因

この不都合な真実について、内藤氏は論文が指摘している分析を紹介します。日本人の幸福度が低い背景には、社会構造の大きな変化があるというのです。

1. 家族の崩壊

2. 宗教・スピリチュアルな側面の希薄化

論文では、伝統的な家族の形が崩れ、地域社会との繋がりが失われたこと、そして精神的な支柱となる宗教やスピリチュアルな価値観が薄れたことが、人々の幸福感に深刻な影響を与えている可能性を指摘しています。

「さらにこの論文は、これらの要因が日本の少子化にまで繋がっていると論じています。的を射た分析だと感じています。」と内藤氏は述べます。

ただ長生きすること、ただ健康であることだけを追い求める時代は終わりを告げました。家族との関係性、精神的な充足感、そして社会との繋がり。日本の幸福度最下位という現実は、私たち一人ひとりが「本当の豊かさとは何か」を真剣に考え直すべき時が来ていることを示唆しています。