2025 11 01

内藤裕二「腸活で労働生産性UP!」

京都府立医科大学

内藤 裕二

腸活で仕事のパフォーマンス向上!生産性を左右する「腸脳相関」の最前線

「なんだか疲れが取れない」「仕事に集中できない」。その原因、もしかしたら「お腹の不調」にあるかもしれません。最新の研究は、腸の状態が私たちの睡眠、気分、そして仕事のパフォーマンスにまで深く関わっていることを明らかにしています。

消化器専門医の内藤裕二氏が語る、「腸活」の新たな可能性と、腸と脳が連携する「腸脳相関」の驚くべきメカニズムに迫ります。

働く日本人の4割が「お腹の不調」を抱える現実

内藤氏らの研究チームは、日本の現役世代3,000人を対象に、お腹の症状に関する大規模なアンケート調査を実施しました。15項目の質問で腹痛や便秘などの症状を評価したところ、衝撃的な事実が浮かび上がりました。

「驚くべきことに、調査対象者の約4割にあたる39%が、何らかの慢性的なお腹の症状を抱えながら働いていることがわかったのです。」

多くの人は「これくらいで病院に行くほどではない」と考え、市販薬やサプリメントで対処しがちです。しかし、この「隠れた不調」が、心身に深刻な影響を及ぼしている可能性が見えてきました。調査では、お腹に症状があるグループは、そうでないグループに比べて明らかに睡眠障害が多いことも判明したのです。

生産性の低下も「腸」が原因だった?見過ごされてきた腸脳相関

さらに分析を進めると、最も深刻な問題が明らかになりました。お腹に不調を抱える4割の人々は、労働生産性が有意に低いという結果が出たのです。

これは、日本が先進国の中で労働生産性の低さを長年課題としていることと無関係ではありません。多くの社員が、会社には来ているものの心身の不調が原因で本来の能力を発揮できない「プレゼンティズム」という状態に陥っている可能性が示唆されます。

内藤氏はこの現象を、腸の状態が悪化する「ガットフレイル」が脳の機能に影響を及ぼし、結果として労働生産性を低下させているのではないか、という仮説を立てています。

ビフィズス菌が生産性を向上させる ― 臨床試験が示した驚きの結果

この仮説を検証するため、研究チームは森永乳業の「ビフィズス菌BB536」を用いた臨床試験を行いました。働く人々にビフィズス菌を摂取してもらったところ、便秘などの症状改善だけでなく、予想通りの結果が得られました。

「ビフィズス菌を摂取したグループは、労働生産性が向上したのです。これは『腸活』が単なる腹痛や下痢の改善に留まらないことを証明しています。」

さらに便を詳細に分析した結果、そのメカニズムの一端も解明されました。腸内細菌が作る「ILA」という新しい代謝物質が増加し、この物質が脳に作用することで、生産性の向上に繋がったと考えられるのです。

ワクチン効果まで左右する「腸内細菌」の計り知れない影響

腸内細菌の重要性は、生産性だけにとどまりません。代謝、感染症、アレルギーといった様々な生命現象に腸が関わっていることが次々と明らかになっています。

最近では、科学誌『Nature』や『Science』で、さらに驚くべき論文が発表されました。

「ワクチンを接種した際、抗体が作られる効率は人によって異なりますが、その差を生む一因が腸内細菌にあることがわかってきました。特に、乳児のワクチン効果は、腸内のビフィズス菌の量に依存するというのです。」

母親から受け継ぐビフィズス菌が少ない赤ちゃんは、ワクチンを打っても十分な抗体を作れない可能性がある。この事実は、腸内細菌がいかに私たちの免疫システムの根幹を支えているかを物語っています。

まとめ

私たちの腸は、単なる消化器官ではありません。睡眠、精神状態、仕事のパフォーマンス、そして免疫力までを左右する、まさに「第二の脳」です。日々のパフォーマンスを高め、健康な生活を送るための「腸活」は、もはや一過性のブームではなく、私たち全員にとって重要な健康戦略と言えるでしょう。