エキスで、食と健康の未来をつくる。
仙味エキス株式会社
代表取締役社長・筬島克裕氏
― 業務用メーカー・仙味エキスが“自社商品”に挑んだ理由 ―
愛媛県大洲市。
山と川に囲まれたこの町で、半世紀近くにわたり「エキス」という分野に向き合い続けてきた企業がある。仙味エキス株式会社だ。
創業当初から掲げるのは、「医食同源」の哲学。自然の恵みを最大限に活かし、人々の健康と幸せに貢献する製品づくりを目指している。
鍋つゆ、加工食品、調味料、健康食品――
私たちが日常的に口にする多くの食品の“おいしさ”や“機能性”の裏側には、同社が生み出すエキスが存在する。魚介類や畜産物のタンパク質を酵素分解してつくるエキス調味料。しかし、その社名を一般消費者が目にする機会は、決して多くなかった。
「もともとは完全に業務用の会社です。表に出る仕事ではなかったですからね」
そう語るのは、代表取締役社長・筬島克裕氏。
仙味エキスは長年、食品メーカーや外食産業を支える“縁の下の力持ち”として歩んできた。
「どうすれば、栄養は人に届くのか」
――仙味エキスの原点
仙味エキス株式会社の始まりは、「おいしさ」でも、「商売」でもなかった。
それは、どうすれば人は、きちんと栄養を摂ることができるのかという、切実な問いだった。
戦後間もない頃。食べ物はあっても、体が受けつけず、栄養を吸収できない人が少なくなかった。魚は手に入る。しかし、消化できずに栄養にならない。――その現実を前に、仙味エキス創業者は考えた。
「 魚のタンパク質を、あらかじめ分解しておけば、体に負担なく栄養として届くのではないか。」
その発想は、当時としては異端だった。
試行錯誤を重ね、失敗を繰り返し、事業として立ち上がるまでに転職した会社は14社に及んだという。会社員として働きながら、押し入れを改造して実験を続けた時期もあった。それでも、「エキス」という可能性を、諦めることはなかった。
昭和51年、八幡浜の魚市場近くで事業をスタートさせる。
一番新鮮な魚が集まる場所で、原料を丸ごと使い切る。中骨も、頭も、余すところなく。
それは結果的に、「副産物を活用する」という発想へとつながっていくが、出発点にあったのは常に、素材を無駄にせず、体に届く形にするという思想だった。
この会社のエキスづくりは、技術の話であると同時に、人の身体と、食の未来に向き合い続けてきた時間の積み重ねなのだ。

「使えるかどうか」ではなく、「どう活かすか」
ーー仙味エキスが貫いてきた「原料を丸ごと活かす」思想
仙味エキスの原点にあるのは、先代から受け継いできた「新鮮な原料を、最初から最後まで使い切る」という考え方だ。
エキス業界では、水畜産物の加工の過程で生じた副産物を原料に用いるケースも少なくない。しかし仙味エキスの場合、その発想は少し異なる。
「副産物をどう活用するか、というよりも、最初に“新鮮な原料そのもの”があって、それをどう無駄なく活かし切るか、という考え方でした」
その結果として、魚介類の中骨や頭部、ホタテのヒモ、アコヤガイの可食部といった、一般には利用されにくい部位にも自然と目が向いていった。
たとえば、真珠養殖で知られる宇和島地域で課題となっていたアコヤガイ。食用としては評価されにくかった部位も、酵素分解という技術を通すことで、旨味や機能性を備えたエキス素材へと生まれ変わる。
「捨てられていたものを使おう、という意識というよりも、素材を丸ごと使っていたら、結果的に価値が生まれていた。しかも“おいしい”形で」
筬島氏の言葉からは、SDGsという言葉が広まる以前から、資源循環や環境配慮を特別なこととしてではなく、ものづくりの前提として捉えてきた企業文化がにじみ出ている。
黒子から、自社ブランドへ。
技術を“直接届ける”という挑戦
長く業務用中心だった仙味エキスが、自社ブランド商品を展開し始めたのは比較的最近のことだ。
「お客様の商品を支える立場でやってきたので、正直、自社で前に出ることには慎重でした。ただ、ニッチな分野であれば、我々の技術を直接届けられる余地があると考えたんです」
そうした流れの中で生まれたのが、**「血圧ゼリー」**である。
名前はストレートに「血圧ゼリー」
“エキス屋”が本気で作った、機能性食品
血圧ゼリーの開発を担ったのが、研究開発部・二宮聖生氏だ。
「もともと、血圧に関わるペプチド素材自体は、原料として長年扱ってきました。ただ、それを“自社商品として、どういう形で出すか”は、かなり悩みました」
機能性表示食品制度の制約、成分表示の考え方、味や食感――
医薬品ではなく食品として、毎日続けられる形を模索した結果たどり着いたのが、ゼリータイプだった。
「錠剤や粉末は、どうしても続かない方がいます。その点、ゼリーなら“食べる”という感覚で取り入れられる。そこは大きなポイントでした」
ゼリーは食事の合間や朝のルーティンに取り入れやすく、健康習慣の一部として無理なく続けられるだろうと考えた。
商品名が「血圧ゼリー」と、非常にストレートなのも特徴だ。
「最初は別の名前案もあったんですが、“血圧以外にも効く”と誤解を招く表現は使えません。結果的に、いちばん誠実な名前に落ち着きました」
血圧が高めの人には低下をサポートし、正常域の人にはその状態を保つ――
二宮氏は、この商品の位置づけをこう説明する。
「急激に数値を変えるものではなく、体のバランスを整えるイメージです。食品だからこそできる、穏やかな働き方だと思っています」

■機能性のポイント
- イワシ由来ペプチド バリルチロシン を含有
- バリルチロシンは「高めの血圧を低下させる機能」が報告されている成分で、日々の血圧サポートに役立つ可能性があるとされています。
「若手に任せてみたら、面白いものができた」
「ぞぶる」シリーズ誕生の背景
仙味エキスのもう一つの顔が、地域資源を活かしたクラフトシリーズだ。
その代表が、「大洲くらふとコーラ ぞぶる」。
「ぞぶる」とは大洲の方言で「水の中でジャバジャバ遊ぶ」ことを意味する。県外出身の若手社員たちが、その響きの面白さに着目し、商品名として採用した。
「これは正直、私が主導した商品ではないんです」
そう前置きしながら、筬島氏は笑う。
「若い社員たちが、“地元に貢献できる商品を作りたい”と言い出して。じゃあ、やってみなさいと」
ぞぶるには、大洲産の柑橘、生姜、椎茸などの素材が活かされている。
摘果みかんや、繊維が多く使い道のなかった親生姜など、未利用・低利用だった素材も含まれる。
「エキス屋として、素材をどう組み合わせるか。その視点が、結果的に活きた商品だと思います」
「金は出すけど、口は出さない」
という経営陣のスタンスのもと、若手が主体的にイベント出店やPRを行っている点も、この商品の背景として印象的だ。
二宮氏も、このシリーズについてこう語る。
「健康機能を前面に出した商品ではありませんが、使っている素材自体が体にやさしい。結果的に、“機能性寄り”の商品になっていると思います」
炭酸割りだけでなく、お湯割りやお酒との相性も良く、冬場には“体が温まる”と評判だ。

冷蔵庫に一本あると、ちょっと嬉しい。
クラフトソース「ぞぶタレ」
「ぞぶる」から派生して生まれたのが、「大洲くらふとソース ぞぶタレ」。
大洲産の柑橘果汁をたっぷり使ったノンオイルソースで、唐揚げや豚しゃぶ、とんかつ、カルパッチョ、冷奴、サラダなど、幅広く使える万能ソースだ。
「難しい調味料ではなく、“冷蔵庫に一本あると便利”な存在を目指しました」
子どもから大人まで使いやすい味設計の裏にも、仙味エキスが長年培ってきた味づくりの技術がある。

黒子でいい。でも、想いは伝えたい。
仙味エキスがこれからも“エキス”に向き合う理由
「地元でも、“何をやっている会社か知らない”と言われることはあります」
そう語る筬島氏だが、その表情はどこか穏やかだ。
「でも、それでいいとも思ってきました。ただ今は、少しずつ“うちの考え方”を知ってもらえたらいいなと思っています」
仙味エキスの考え方とは――
・長年にわたって培ってきた 酵素分解技術やペプチド研究 を背景に、未利用資源を価値に変えること。
・地元・愛媛の素材を活かしつつ、おいしさと健康を、無理なく両立させること。
・若手の挑戦を後押しすること。
血圧ゼリーも、ぞぶるも、ぞぶタレも――
そのすべては、エキスという技術を通して、人と地域をつなぐという、仙味エキス株式会社の一貫した思想の延長線上にある。
これからも同社は、表舞台に出すぎることなく、しかし確かに、私たちの食と健康を支え続けていく。
NPO食品機能性委員会