遺伝子組み換え食品はからだに有害?
元厚生省、農林水産省技官
中嶋 茂
ヒトの細胞は60兆個あり、各細胞の核の中の染色体に二重らせん構造のDNAが折りたたまれて収納されています。細胞の大きさは約0.01mm、DNAの長さは約2mですから人のDNAの総延長は1200億㎞という想像もつかない二重らせんDNAから人体は創られているのです。
DNA(デオキシリボ核酸)は、糖、リン酸、4種類の塩基からなるヌクレオチド分子が鎖状に連なっています。この4種類の塩基の並び方(塩基配列)に遺伝情報が書き込まれており、遺伝情報を持っている部分を遺伝子と呼んでいます。なお、全ての遺伝情報(DNA配列の設計図)のことをゲノムと言います。
遺伝子組み換え食品とは、この遺伝子のある部分を他の遺伝子に置き換えて作られたものです。言い換えれば、長い年月をかけて起きる突然変異を人為的に生じさせたものといえます。
ある植物の都合の悪い部分(害虫に弱い)を、都合の良い(害虫に強い)有益な遺伝子に置き換えることにより可能となります。
現在、わが国では大豆、トウモロコシ、ナタネ、綿及びジャガイモ、テンサイ、パパイヤ、アルファルファの8種類の遺伝子組み換え作物について許可されていますが、国内栽培はなされておらず、後者4種類は国内流通されていません。
遺伝子組み換えの目的は、除草剤に強い、害虫、ウイルス病に強い、特定成分が多いという作物特性があります。
遺伝子組み換え食品の問題点は、A人体に対する影響、B生態系に対する影響が特に問題視されています。
Aについては、導入された異種の遺伝子やその生産物は安全か、新たな遺伝子が生じてアレルギーなどを発症しないかなどと言うものです。
これについては、導入遺伝子が明確であり、その他の性質も従来品種と変わらないことから国において「実質的同等性」が証明されているとされています。
また、現在の科学技術水準による国際的評価では、その安全性に問題ないとされています。
一方、食経験が短いことから、微量の異物を極めて長期間摂取した場合の慢性毒性の評価がないことについては、人体毒性が現れる可能性は極めて低いが、アレルギー誘発の可能性に関しては今後の詳細な検討が必要ではないかともいわれています。
Bについては、薬剤耐性作物の花粉が他の植物に影響することはないか、害虫抵抗性作物が標的害虫以外の虫類に影響することはないかと言うものです。
これについては、それぞれ可能性は低いが、除草剤をかけ続ければ耐性のある雑草が増える危険性や他の虫類への影響もゼロとは言えず、条件がそろえば生態系を乱す可能性は否定できないとも言われています。
このような懸念材料はあるものの、食糧問題対策等で世界中で栽培が行われており、今や世界の栽培面積の13%に達する農地で遺伝子組み換え作物が栽培されています。中でも特にトウモロコシと大豆が圧倒的に多く栽培されています。
では、どうしたら遺伝子組み換え作物を避けることができるのでしょうか。
まず食品の表示を確認することから始める必要があります。
遺伝子組み換え表示が義務付けられているものは、意図せざる混入率が5%を超える場合のみです。
この場合には「遺伝子組み換え不分別」と表示されています。つまり、遺伝子組み換え作物を使用していることを意味します。
また、混入率5%以下の場合は任意表示で表示義務がありませんが、「遺伝子組み換えでないものを不分別」、「遺伝子組み換えでない」と記載されることが認められています。
しかし、これでは実情にそぐわないとして2023年4月から表示基準が改正され、5%の基準を引き下げることになりました。まだ、何%までにするかは検討中ですが基準が厳しくなります。
そして、表示義務がある食品は、大豆では豆腐、油揚げ、納豆、豆乳、みそ、きな粉などで、組み換えDNAやそれに由来するタンパク質が検出されない醬油、大豆油は表示義務がありません。
トウモロコシでは、コーンスナック菓子、ポップコーン、コーンスターチ、トウモロコシ缶詰等が義務表示で、コーン油、コーンフレーク、水あめ等は表示義務がありません。
ジャガイモの場合は、冷凍ポテト、ポテトチップスに義務表示があります。
このように、現在の遺伝子組み換え食品の表示制度では、遺伝子組み換え作物が5%以下の食品と組み換えDNAやそれ由来のタンパク質が熱分解等により検出されない食品については表示義務がありません。
従って、遺伝子組み換え作物を原料として少量使用した食品については、一般消費者がその使用の有無を識別することは困難と言わざるを得ません。