2022 02 16

放射能汚染された食品はいつまで有害?

元厚生省、農林水産省技官

中嶋茂

放射能とは、放射性物質が出す放射線の能力(強さ)のことです。では、放射性物質とはどんなものでしょう。放射性物質には自然界に存在するものと、人が人工的に作り出したものがあります。
自然界に存在する放射性物質には、ウラン、カリウム、炭素、トリチウム、ラドンなどで、人工の放射性物質には、プルトニウム、ストロンチウム、セシウム、ヨウ素などがあります。
これら放射性物質が放出する放射線の種類には、α(アルファ)線、β(ベータ)線、γ(ガンマ)線があります。なお、レントゲン撮影にはX線が使われています。自然のものも人工的なものも放射線は全く同じ性質を持ちます。
放射線はエネルギーが高いため、物質を通り抜ける透過力があります。α線は弱く紙1枚で止められ、β線はプラスチックやアルミニウムなどの薄い板で止めることができますが、γ線は強くて鉛や鉄の厚い板でしか止めることができません。X線もγ線と同様で厚い鉛板で遮蔽して撮影しています。
中性子線以外の放射線は、空気中の物質などで弱まり、遠く離れると影響が無くなります。
また、放射性物質は放射線を放出する能力が時間の経過とともに減衰します。この放射能が半分になる時間を半減期と言います。放射性物質の半減期は、半永久的に放射能を持つもの(トリウム232は141億年)や短時間に弱くなるもの(ラドン222は3.8日)があります。
さて私達は、日常的に放射線にさらされて被爆しています。宇宙、空気、大地、食べ物そして医療(CT検査など)により放射線被爆を受けており、日本人の年間被爆線量は5.98mSv(ミリシーベルト)、このうち2.1mSvが自然放射線からの被爆ですから、医療における被爆がいかに多いかが分かります。Sv(シーベルト)とは、人が受ける放射線被爆の線量の単位です。放射線取扱作業員の被爆限度は、年間50mSv、5年間で100m㏜とされています。
放射線被爆には、宇宙、大地、医療からの放射線による外部被爆と、空気、飲食物中の放射性物質を吸引、摂取することによる内部被ばくがあります。
内部被爆は、取り込まれた放射性物質が代謝により排出されるまで常時体内で放射線を放出することになるので、福島原発事故による放射性物質の食品汚染が問題になるのはこのためです。



福島原発事故に伴い食品中の放射性物質の基準が設定されました。当初、2011年3月に緊急時対応として年間5mSvを超えない範囲で暫定規制値が設定され、翌2012年4月に年間1mSvを超えない範囲で新たな基準値が設定されて現在に至っています。
基準の設定に当たっては、原発事故で放出された全ての核種から半減期が1年以上の核種が計算対象とされ、最も多く存在し測定が容易な放射性セシウム(セシウム134とセシウム137)を指標とすることになりました。
放射性セシウムの基準値(ストロンチウム、プルトニウム等を含む)は、一般食品100Bq/kg、乳児用食品50Bq/kg、牛乳50Bq/kg、飲料水10Bq/kgです。Bq(ベクレル)とは、放射能の強さを表す単位です。例えば、100Bqの食品を1㎏食べた場合の人体影響は、100Bq×1㎏×実行線量計数「セシウム137の成人0.013(μSv/Bq)」=0.0013mSvとなります。
なお、この基準値は、欧米の基準値の1/12~1/120という極めて厳しいものとなっています。
現在、国内産品で基準値を超える食品は流通しておらず、放射性セシウムが検出される食品は僅かです。なお、検出された食品の検出値は極めて低いレベルであり、さらに年々検出レベルは下がっています。