2026 02 24

「断食」で若返るーーノーベル賞理論が示した「空腹」の力ーー

NPO食品機能性委員会理事長

後藤 典子

「足す健康」から「引く健康」へーー食の常識を問い直す

飽食社会といわれて久しい現代では、常に満腹になるまで食べることが習慣化し、肥満、糖尿病、慢性炎症といった”現代病”を生み出す要因のひとつとされています。近年では、こうした文化的・社会的背景を見直す科学的アプローチとして、「食べないこと」、つまり断食(ファスティング)が注目されるようになりました。

私たちは日頃、「何を食べるべきか」という情報に囲まれ、健康意識が高い人ほど“何かを足す健康法”を選びがちです。しかし、ここで別の視点を持ってみましょう。
「健康とは、不要な習慣を引くことでも得られる」—— その最たる方法がファスティングです。

現代人が抱える慢性炎症や生活習慣病の多くは、実は“食べすぎ”に起因します。だからこそ、体調や代謝の根本改善には「食べない時間」を意識的につくることが重要なのです。

断食は”古くから続く智慧”ーー世界が実践してきた健康法

断食は、単なるダイエットではなく、古代から続く重要な健康法のひとつです。

古代エジプトには、「断食は最良の薬である」という言葉が残っています。

また古代ギリシャの医学の父ヒポクラテスは、「病気は食べ過ぎから始まる。治療は断食から始まる」として、治療に断食を用いたと記録されています。

インド発祥の伝統医学アーユルヴェーダでも、「断食は未消化物を排出し、代謝を高める」健康法として重要視され、現代のデトックス思想の源流ともなっています。

また断食は宗教とも深く結びついており、仏教、イスラム教、キリスト教、ユダヤ教、ヒンドゥー教など多くの宗教で「精神と身体の浄化」として実践されてきました。このため、かつては”非科学的”と見なされる時代もありました。

しかし19~20世紀になると医学的な研究が進み、断食は肥満・高血圧・糖尿病などの治療法として活用され、ロシアでは精神疾患の改善にも導入されています。

日本では、内科医・甲田光雄が「甲田療法」として断食を推奨し、朝食を抜く半日断食の実践によって高い健康改善効果を示しました。

甲田光雄著『奇跡が起こる半日断食』(2001年)では、1日1食・朝食抜きの「半日断食(16~20時間の断食時間)」を提唱。

半日断食によって胃腸を徹底的に休めると、消化に使われていたエネルギーが細胞修復や免疫機能へ回され、病気の改善・疲労回復・肌質向上・精神の安定など多くの変化が起こると説きます。

とくに、体の再生において鍵となるのは「空腹時間」であり、胃腸の疲労こそ生活習慣病の根源だとしています。玄米・野菜中心の少食、規則正しい生活、適度な運動を組み合わせることで、体質改善に大きな効果があるとまとめています。

一般的には、病弱な人や胃腸が弱い人の体質改善に向いているとされています。

科学が証明した「空腹の力」ーーオートファジーという若返り装置

古代から受け継がれてきたファスティングは、現代医学・栄養学の進歩によって「人間の自然治癒力を引き出す方法」として認められるようになりました。

とくに「オートファジー(細胞の自己修復システム)」や代謝改善の科学的な効果が注目され、心身を整える健康法として再評価されています。

なにより、ファスティングの評価を科学的に高め、ブームの起爆剤となったのが、2016年、ノーベル生理学・医学賞を受賞した東京工業大学の大隅良典教授の「オートファジーの仕組みの解明」です。

細胞は本来、自分を掃除し修復する仕組みをもっており、空腹や栄養不足の状態がそのスイッチになるということが、オートファジー研究により分かったのです。

それまでの一般的な健康観では、「空腹は健康に悪い」「朝食は必ず食べるべき」と考えられてきました。しかし、オートファジー研究の普及によって、「空腹は細胞の修復を促す」という科学的な裏付けが浸透し、ファスティングが「我慢」の苦行ではなく、「細胞の若返り」という喜ばしいイメージへと変化していったのです。

現代科学が示すファスティングの恩恵

では、医学・栄養学は断食の効果をどのように認めているのでしょうか。明らかになっている主な効果は次のとおりです。

①血糖値コントロールが改善する
食事の間隔が空くことで、細胞のインスリン受容体がリフレッシュされ、「インスリンが効きやすい状態」に戻るため、食後の血糖値が上がりにくくなり、糖尿病リスクが低下する、脂肪がつきにくい体質になる、といった効果が考えられます。

②ケトン体が増えて、脂肪燃焼しやすくなる
断食時間が12〜16時間を超えると、体内の糖が減り、肝臓はエネルギー源として脂肪を使い始めます。脂肪を分解して、ケトン体という燃料を作り出す「脂肪利用モード」へ切り替わります。
ちなみに脳細胞は通常、糖をエネルギー源としますが、糖が不足するとケトン体を利用します。ケトン体は脳の炎症抑制や老化防止に働きます。

③オートファジーの活性化で、細胞の若返り
「一定時間エネルギーが不足すると、細胞が自分を修復し始める」という、生命が持つ自然のメカニズムを活用して、老化細胞の分解や慢性炎症の軽減、アンチエイジング効果の可能性も。

④消化器を休ませて、腸内環境を整える
腸に休息の時間を与えることで、便秘解消や腸の炎症軽減、善玉菌の増加などが期待できます。腸内細菌には「飢餓で強くなる細菌」もおり、断食による善玉菌バランスの変化が実験で示されています。

⑤脳機能の改善で、頭が冴える
「脳の栄養」と言われるBDNF(脳由来神経栄養因子)が、断食によって増えると報告されています。これは空腹によるケトン体の増加に加えて、有酸素運動や新しい学習などによる脳への刺激が、BDNFの生成を高めるためです。

たとえばケトン体が上がっている空腹の朝に、軽いジョギングやウォーキングをすることで、記憶力や集中力のアップ、認知症リスクの低下にもつながると考えられています。

このように多くの生体反応が“良い方向へ切り替わる”のが、断食の魅力です。

まだ動物実験のレベルですが、断食や摂食制限が老化速度を遅らせ、寿命を延ばすという確かなエビデンスが報告されています。

ファスティングの種類と選び方

断食にはいくつものパターンがあるので、自分の目的や生活スタイルに応じて実践しやすいものを選ぶことが大切です。

断食の目的としては、ダイエット、体重管理、老化抑制、メンタルの修復、大きな体質改善、食べ過ぎのリセットなどがあります。

  1. 16時間断食(最も実践しやすい)
    1日のうち16時間は固形物をとらず、残り8時間で2~3回の食事をとる方法。消化器官を休めて、体重管理に効果的。ケトン体が増えて思考がクリアに。オートファジー活性の入口に到達できる。
  2. 週末断食
    土日など連続した1〜2日間、固形物を摂らず水・お茶・スムージーのみをとる方法。デトックス効果が高く、体重が落ちやすい。メンタルのリフレッシュ効果も。ただし、初心者は低血糖や疲労感が出やすい。回復食に留意が必要。
  3. 一日一食(OMAD=One Meal A Day)
    1日のうち23時間は断食し、残り1時間で1日分の食事を取る方法。摂取カロリーが抑えられて、脂肪燃焼が進む。オートファジーが活性化する。食事の手間や時間の短縮になるが、栄養不足や過食につながるリスクもある。

他にも、24時間断食、36時間断食、48時間断食、ジュースクレンズ、専門家のアドバイスや管理の下で行うものもありますが、断食に求める目的に応じて、無理なく実践できそうなパターンを検討しましょう。

ファスティングのリスクと注意点

  1.  栄養不足や筋肉量の低下
    長期間の断食や、栄養の偏り、不適切な回復食などで、たんぱく質の不足や筋肉量の低下、代謝の低下などのリスクが伴います。
  2. リバウンドしやすい
    食事を極端に制限した反動で、食欲増進や過食が起こり、一時的に減った体重が戻りやすい傾向があります。
  3. 低血糖による不調
    頭痛、ふらつき、イライラ、集中力低下など、血糖値が下がりすぎることで不調が出る場合があります。
  4. 胃腸への負担(回復食が重要)
    断食後、急に通常食へ戻すと、胃痛や消化不良を引き起こすことがあります。ファスティングでは「回復食」が重要なポイントになります。
  5. 断食が適さない人もいる
    妊娠中や授乳中、成長期、低体重、持病があるような場合はリスクが高く、避けるのが安全です。

断食、ファスティングは「我慢の修行」ではありません。自分のからだに休息と新たな力を取り戻すリセットボタンと言えます。
食べ続ける毎日で働きづめの臓器に休息を与えることで、からだは静かに、しかし力強くよみがえります。思考はクリアになり、心は軽く、前向きになるでしょう。

まずは半日から、始めてみませんか?

後藤の16時間ファスティング実践記

私がファスティングを行う目的は、次の3つです。

1,集中力や仕事のパフォーマンスを高めたい

2,オートファジー活性によるアンチエイジングを促したい

3,筋肉を維持しながら、健康的にからだを引き締めたい

①集中力アップの導線
朝の空腹で増えるケトン体と、起床後、1時間ほどのストレッチによる血流アップによって、BDNFが増加し、集中力や思考力がクリアになる

②アンチエイジングの導線
朝は、具なし味噌汁で軽い空腹状態を維持し、12時に最初のまとまった食事を取るまで、約16時間の断食により、オートファジー活性の入口に到着する

③筋肉維持の導線
断食16時間程度なら、筋肉量を維持しながら脂肪を落とすことが可能。ランチでは、温野菜と鶏肉、卵、豆腐、納豆などの高たんぱく・低GI食を摂り、夕食も魚中心で栄養をしっかり補給し、週1回のダンスと水泳でフレイル予防を実践する

■本記事の執筆者
後藤 典子(ごとう のりこ)


<現職>
ジャーナリスト
NPO食品機能性委員会理事長
一般社団法人日本サプリメント協会代表理事
 
同志社大学文学部を卒業後、編集プロダクションを経て、医療・健康ジャーナリストに。

2001年、日本サプリメント協会を設立、2021年、食品機能性委員会を設立し、中立な情報機関として、書籍の発刊、講演、執筆などを行い、ヘルスプロモーションの啓発に努める。
WebサイトやYoutubeチャンネルを通じて、食品の機能性をセルフケアに役立てるための情報を発信している。

●NPO食品機能性委員会:https://functionalfoodjapan.com/
●Youtubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCKmgSafo-zqiaW61EuFyE_g/featured